非侵襲性間接覆髄は、歯髄に近接した深いう蝕を除去する際の偶発的露髄の回避に効果がある。

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
日本歯科保存学会から出されている
「う蝕治療ガイドライン」を読んでいます。

 

臨床症状がなく歯髄にまで達するような深在性う蝕を露髄させることなく修復することは歯髄保護の観点から意義深く、ひいては健康21を推進している現在、長期の歯の健康維持にもつながり、8020の達成に大きく貢献できると期待できる。

現在までにも う蝕象牙質を一気に除去すると露髄をきたしそうな部分の感染象牙質を残し、その部位に覆陶材を塗布して仮封すると、数か月後には軟化した象牙質の硬化と修復象牙質の添加が促進され、その後 期間をあけて段階的に感染象牙質を除去することによって、露髄することなく生活歯の状態で修復できることを経験してきた。

 

非侵襲性間接覆髄を行った場合、歯髄症状の発現は う蝕完全除去の場合と同じか?

歯髄に到達するような深いう蝕で、歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈する場合、非侵襲性間接覆髄を適応した歯髄は露髄をきたさず行われた う蝕完全除去と同様に正常状態を保っている。よって非侵襲性間接覆髄を行うよう推奨される。

非侵襲性間接覆髄は、歯髄に近接した深いう蝕を除去する際の偶発的露髄の回避に効果がある。このことは乳歯および永久歯を対象とした4編のランダム化比較試験でサポートされたシステマチックレビューで述べられており、そのうち1編は永久歯を対象としたランダム化比較試験である。それによると116人の患者において エックス線検査でう蝕を完全に除去すると露髄する可能性がある臨床症状のない127臼歯を 非侵襲性間接覆髄群と一括完全除去群にランダムに割り付けて露髄頻度を比較した。その結果 非侵襲性間接覆髄群で優位に低かった。さらに両群で露髄をきたさなかった40歯それぞれにおいて、平均43ヶ月経過時にも臨床診査および エックス線検査にて歯髄は正常であった。したがって非侵襲間接覆髄は永久歯の深いう蝕の偶発的な露髄回避に有効であると結論づけられた。

非侵襲性間接覆髄の治療技術レベルは歯科の基本治療の範囲であり、ほとんどの症例で浸潤麻酔を使用せず無痛治療として行うことが可能で、患者の肉体的・精神的な負担も少ない。さらに、コスト面でも支援が図られた。加えて抜髄後に歯冠修復を行う場合と比較して、歯髄保存をはかった場合に必要な費用は明らかに少なく、医療費削減に確実に貢献できる。また、術直後の軽度な不快症状とう蝕の一括完全除去と比較して治療期間が長くなる以外には有害事項が認められず、歯髄保護をはかる意義は大きい。よって、臨床症状がない歯髄に近接した深いう蝕に非侵襲性間接覆髄を適用し、歯髄保護をはかることが推奨される。

非侵襲性間接覆髄の後、う窩を再拡張して残遺させた う蝕を再診断し、そのう蝕を完全に除去するべきかどうかに関してはさらなる臨床研究が必要である。歯髄に近接した感染象牙質を残して水酸化カルシウム製剤を添付し、強化型酸化亜鉛ユージノールセメントにて仮封した後、6か月後にう蝕を再開拡して深いう蝕を残したまま水酸化カルシウム製剤を再び塗布してコンポジットレジン修復を行った症例では40か月後のエックス線検査にて う蝕の進行が認められなかったとの報告がある、また先に示したシステマテックレビューでも う蝕を完全に除去すべきかどうかに関しては、結論を導くには十分な根拠がないとしている。

以上のことから 今回のガイドラインでは非侵襲性間接覆髄によって露髄を回避し最終修復を行うことを推奨する。