直接トロンビン阻害薬を継続のまま抜歯をすることが推奨されるか?

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
日本口腔外科学会から出ている
「 抗血栓療法患者の抜歯のガイドライン」 を読んで勉強しています。
ガイドラインの中の大切な内容をまとめながら、ブログに残していきたいと思います。

 


直接トロンビン阻害薬(ダビガトラン)服用患者で,原疾患が安定し,至 適量が投与されている患者では,ダビガトランを継続投与のまま抜歯を 行っても,適切な局所止血を行えば重篤な出血性合併症を発症する危険性は少ないとされてい る(エビデンスレベルC).ただし,科学的根拠を示す報告は少なく,今後のデータの蓄積が必 要である。

症例報告では,ダビガトラン服用患者5例の抜歯を4例は服用継続下に,1例は処置48時間前 に休薬して行い,抜歯窩を緊密に縫合した.その結果,4例は止血良好であったが,服用を継続し た1例で抜歯後出血を認め,再縫合とダビガトランの休薬により止血した.現時点では, ダビガトラン服用患者の抜歯に対する科学的根拠はないが,多くの専門家が,単純抜歯の場合,適 切な局所止血処置を併用すれば,ダビガトランは継続投与のままでよいと論じている.実際,近年大幅に改定された「抗血栓薬服用患者に対する消化器内視鏡ガイド ライン」でも,単なる観察や生検であれば,ダビガトランを休薬なしで施行するよう記載されてい る .さらに,日本循環器学会などの4学会による「心房細動治療(薬物)ガイドライン 」には,「新規経口抗凝固薬については十分なエビデンスは確立されていないが, ワルファリンに準じて継続下での抜歯が勧められる.」と記載されている .  一方,ダビガトラン服用患者で待機手術が必要な場合は,手術の侵襲度と腎機能にあわせてダビ ガトランを休薬することが推奨されている .本報告に基づき,Romondらは 腎機能が正常な患者に対し,ダビガトランを処置24時間前に休薬し,8本の抜歯と歯槽骨整形を行っ た.抜歯窩に吸収性ゼラチンスポンジを挿入後縫合し,翌日よりダビガトランを再開し たが,止血は良好であり,血栓塞栓症の発症はなかった.

 ダビガトラン休止による血栓塞栓症に関しては,2012年に発表されたRE-LY試験のサブ解析 にて,小手術時の24時間前,あるいは大手術時の2~5日前にダビガトランを休薬した場合,脳 梗塞あるいは全身性塞栓症は,ワルファリン休薬群と同程度の 0.5%に発症することが示され た.さらに,人工膝関節全置換術後,静脈血栓塞栓症予防のために6~10日間のダビ ガトランによる抗血栓療法を行ったRE-MODELランダム化比較試験では,ダビガトラン投与終 了後の重篤あるいは致死的な静脈血栓塞栓症は,コントロール群であるエノキサパリンと同程度で あったことから(ダビガトラン220mgで2.6%,ダビガトラン150mgで3.8%,エノキサパリンで 3.5%),ダビガトラン休薬による凝固能の亢進(リバウンド現象)はないとしている.し かしながら,Thorneらは,ダビガトラン内服中の消化器症状によりアスピリンあるいはワルファ リンへの変更後,1ヶ月以内に発症した動脈あるいは静脈血栓症を半年間で3例経験したと報告し ている.これらの現象がリバウンド現象によるかは不明であるが,われわれ歯科従事者 はワルファリンと同程度の頻度で発生するダビガトラン休薬後の血栓塞栓症を極めて重大に受け止めるべきである.  ダビガトラン内服時の抜歯時期に関しては,腎機能が正常な欧米人を対象に行ったダビガトラン 内服患者におけるランダム化比較試験では,ダビガトランの最高血中濃度到達時間(Tmax)中央 値は1.5時間程度であったことから,van Diermenらは抜歯前にダビガトランを休薬す る必要はないが,内服1~3時間以降に抜歯するよう推奨している .しかしながら, Stangierらのデータは空腹時投与のものであり,ダビガトランのインタビューフォームによると, 1日2回食後に内服した場合のTmax中央値は4時間程度であった.そのため,矢坂ら はダビガトラン内服6時間後の抜歯を勧めており,この方法で10例程度の抜歯を行ったが出血性 合併症はなかったと記載している.また,European Heart Rhythm Associatiやベルギーのthrombosis guidelines groupは,Practical guideにて,1~3本の単純抜歯で はダビガトランを休薬する必要はないが,可能であれば内服12時間以降のトラフ時に処置を行い, 抜歯窩の縫合と完全止血後の帰宅,さらには術後の5%トラネキサム酸による1日4回の含嗽を5 日間継続することを推奨している。