観血的整復固定

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
日本放射線学会から出されている
「口腔顎顔面外傷診療ガイドライン2015年」を読んでいます。

 

下顎角骨折に対するプレート固定時に、ミニプレート 1 枚による固定(外斜線部への口腔内アプローチ) よりも、ミニプレート 2 枚による固定(経頬的アプローチ)を行うべきか?

下顎角骨折患者に対する観血的整復固定時において、ミニプレート1枚による固定(外斜線部への口腔 内アプローチ)に代えて、ミニプレート2枚による固定(経頬的アプローチ)は行わないことを弱く推奨する。。患者に対する臨床上でのアウトカムとして、咬合の復位や顔貌所見、追加 処置、合併症があり、咬合の復位については両群間で有意差が認められなかった。顔貌所見についてはミニプレ ート2枚群のみ経頬的な手技のため、顔面の瘢痕を2名で認めた。追加処置については、ミニプレート1枚群で は3名で、ミニプレート2枚群では4名で感染などにより術後早期のプレート除去を行っていたが、両群間で有 意差は認めなかった。害(合併症)については、ミニプレート1枚群では 23 名で、咬合不整、感染、麻痺、プ レート除去、顎間固定の追加を認めており、ミニプレート2枚群では 15 名で咬合不整、感染、麻痺、頬部瘢痕、 プレート除去、顎間固定の追加を認めたが、両群間で有意差は認めなかった。 診療ガイドラインパネル会議では、両群間で差がないのであれば経頬的アプローチの選択は行わないとの意見 があった。論文によってミニプレートに使用するスクリューの数が異なっており、比較が困難であった。入院期 間の短縮につながるならば 2 枚の使用も考慮すべきとの意見があった。症例により、ミニプレート2枚を口腔内 アプローチなどによって使用する場合もあると注意に記載することになった。 

 

成人の変位を伴う片側下顎骨関節突起骨折患者に、非観血的治療より観血的治療を行うべきか?

成人の変位を伴う片側下顎骨関節突起骨折患者に、非観血的治療より観血的治療を行うことを弱く推奨 する。 両側の場合は観血的治療が選択されることが多いが、片側の場合は観血的治療と非観血的治療の選択の議論が 行われている。Choi らによると、従来は非観血的治療が主流であったが、最近では観血的治療が行われるように なってきたとしている。これは Kyzas らのシステマティックレビューからもその傾向がうかがえた 。特に内視鏡下でのプレート固定のための手術器具の開発により、より侵襲の小さな状況での手術 が可能となってきた。たとえば、今回はインドの論文が多かったが、インドでの背景として治療後の経過観察の 期間(顎間固定は治療自体の期間)が長いことは、生活を脅かす要因となるかもしれない。また、欧米でも治療 期間の短縮が大きなテーマである。一方、顎関節突起の部位に関する用語に統一性がなく、同じ用語でも若干違 う部位を示していた。本 CQ では、基部から関節包外までを対象とし、関節包内は対象外とした。 ランダム比較試験の 4 論文ならびに既存のシステマティックレビューに記載されてあったデータに基づいて、
メタ分析を行い、エビデンスプロファイルを作成した。いずれの論文のバイアスのリスクは、ブラインドが行わ れてないなど深刻な問題があり、症例数も少なく精確性に深刻な問題があった。 結果のうち、機能回復に関するものはいずれも観血的治療が良好な結果であった。しかし、その効果の大きさ は小さく、いずれも代替のアウトカムであった。また、神経麻痺(顔面神経)の程度や範囲が不明ではあるが観 血的治療(手術的治療)でわずかに存在したが(5.6%)、非観血的治療では存在しなかった。その麻痺は今回の システマティックレビューならびに合併症をテーマとした論文では、一過性であることがほとんど であることが確認された。しかし、他の合併症の報告である Bouchard らによると、観血的治療118 例中 1 例が永久麻痺であったと報告している。 今回の観血的治療は口腔外アプローチのため顔面の傷跡が残るが、著明な瘢痕が生じた症例はこれらの研究内 では 1 例のみであった。また、多くのアプローチでは髪の毛に隠れるなどのため、目立つこ とはないとされている。 最近では、顔面に傷跡が残らない口腔内の切開による内視鏡などを使用した観血的治療も行われている。口腔 内切開によるアプローチでは顔面神経に直接障害を及ぼすことがないものの、器具の圧迫によると考えられる一 過性の顔面神経の麻痺の報告もある。さらに、三叉神経第 III 枝の障害による下唇の知覚鈍麻の報 告もある。 治療に対する負担としては、観血的治療では全身麻酔等に関する負担が考えられ、非観血的治療では、顎間固 定の期間を 3-4 週間必要とする。この顎間固定の期間中は通常の食事は不可能であり、いわゆる経管栄養剤を咬 合している歯の隙間より飲むこととなり、その負担は大きいと想定される。一方、観血的治療では顎間固定の期 間は長くても数日となるため、負担が軽減されると推定される。 診療ガイドラインパネル会議では顎間固定に対しての意見が多くだされた。顎間固定でも、ゴムの場合、ワイ ヤーの場合、矯正ブラケットを使用している場合、IMF スクリューを利用した場合などで、医療消費者の負担の 程度にばらつきがあった。そして、顎間固定による咬合の安定化も指摘された。 一方、手術を受けずに良好な経過を得た症例の紹介がなされた。さらに、骨の変位がおこったまま治癒するの でなく、しっかりと元通りに戻して欲しいことを望む患者もいるのではないかとの意見もあった。よって、医療 消費者の負担・好みに関するばらつきが大きかった。観血的治療では、顔面運動麻痺(顔面神経:麻痺の程度や 範囲は一定でない)やフライ症候群の可能性があることを考慮すべきであるとの意見があった。投票の結果は、 1回目の投票で観血的治療を弱く推奨すると決定されたが、医療消費者からは手術を希望しない場合もあること を注意に入れるべきとの意見がだされた。そして、医療提供者からは非観血的治療を積極的に行う者もいること が指摘された。 最後にシステマティックレビューが存在したものの、重大なアウトカムである整復・修復の状況のエビデンス が存在しなかったので、推奨そのものをなくすとする強い意見があった。また、本推奨文で一律に本診療ガイド ラインが観血的治療を推奨しているのではないことに注意して欲しい。