上顎前突における乳歯列期・混合歯列期の治療

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
日本矯正歯科学会から出ている
「 矯正歯科診療のガイドライン」 を読んで勉強しています。
ガイドラインの中の大切な内容をまとめながら、ブログに残していきたいと思います。

 

上顎前突における乳歯列期・混合歯列期の治療

矯正歯科治療における乳歯列期での治療は、混合歯列期の治療やその予後にも影響を与えるため、慎重な判 断を要する。混合歯列期は Hellman の咬合発育段階では IIC から IIIB にあたり、顎の成長発育が旺盛な時期であるが、永久歯の萌出に伴い種々の不正咬合も発現する。混合歯列期の主な治療目的は、乳歯列期の治療目的 の1つであった上下顎関係の改善に加えて、歯列や顎の成長発育を阻害する因子を取り除くことである 1。こ れら乳歯列期、混合歯列期の治療を I 期治療と呼ぶ。 本ガイドラインは、他の多くの診療ガイドラインと同様、根拠に基づいた医療(evidence-based medicine: EBM)
の手順で作成される「エビデンスに基づく診療ガイドライン」とすることを目標とした。しかし、現時点です
べてのクリニカル・クエスチョンに対して高いエビデンスは存在せず、引用された論文のエビデンスレベルも様々であった。本来診療のガイドラインは日本人を対象とした論文から得られたエビデンスに基づき作成され
るべきであるが、日本人を対象にしたエビデンスの高い研究はない。日本矯正歯科学会は臨床研究をより一層 推進していく必要がある。
乳歯列期・混合歯列期における上顎前突の治療は画一的なものではない。したがって、エビデンスに基づく正しい治療方法の選択を行うためには、過去に行われた臨床研究について十分な知識と理解を有することが必 要不可欠である。患者にとって本当に有益な I 期治療とは、少なくともこれらの内容を十分に理解し、且つそ れを実行できる技量を有する矯正歯科医によって行われるものであると考えられる。

上顎前突症患者は、歯の外傷の危険性が高いか?

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上顎前突症患者は、歯の外傷の危険性が高いか?

 

上顎前突は歯の外傷の危険性が高い。上顎前突の臨床的な決め方として高橋の分類によってオーバージェッ トが 7~8mm以上あるものと規定していたが、それ以下であっても咬合や側貌の観察によって上顎前突感があり、他の分類に入れにくいものも臨床的に上顎前突として取り扱われている。いずれにしてもオーバージェットとの関連は大きく、その大きなオーバージェットを正常範囲に減少させることは上顎前突を治療する共通 認識であるが、その意義について考える必要がある。

上顎前突に限らず不正咬合による障害は、齲蝕発生、歯周疾患の誘因、歯の外傷および歯根吸収の誘因、咀機能障害、筋機能障害、骨の発育障害および発音障害などがあげられるが、疼痛や肉体的な違和感を伴うこ とが少ないため、患者はこれらの機能的な障害を自覚していないことが多い。 上顎前突は歯の外傷の誘発が、他の不正咬合に比べて最も高い。大きいオ ーバージェットの不正咬合は、それ以下の患者に比べ約 2 倍の外傷リスクがある。すなわち、オーバージェットの大きい上顎前突のままであるとそのリスクは 2 倍高い状態であり、もち
ろん偶発的因子(環境や行動等)も外傷歯の原因として関連しており、それらの相互的作用によるかもしれな いが、治療におけるオーバージェットの減少は大きく有益であると考えられる。
一方、上顎前突と発音障害の関連、オーバージェットと口唇癖との関連、などについては、これを直接的に評価する高いエビデンスの論文は現時点では残念ながら見当たらないが、上顎前突を治療しないとどうなるか、
というクリニカル・クエスチョンに対しては重要な分野であるため、今後の研究成果が期待される部分である。

 

上顎前突を含む咬合異常は口腔機能に影響を与えるか?

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上顎前突を含む咬合異常は口腔機能に影響を与えるか?

咬合異常は咀嚼機能に影響を与える可能性は高い。しかし、構音機能、顎関節症、ブラキシズムと直接的に 関連があるとの強い科学的根拠はない。

不正咬合は咀嚼機能、能率を低下させる。正常咬合の咀嚼機能は不正咬合 のそれより優れている。Angle 分類と咀嚼機能では、Angle III 級だけが明らかに咀嚼能率が減じている。不正咬合は顎関節症の直接的要因ではない。そして、過大な水平被蓋、過蓋咬 合は/s/、/z/、 /j/、/ch/、Class III は/zh/、/ch/、/sh/、/z/に影響を与える。不 正咬合はブラキシズムを引き起こさないと考えられる.

 

 

 

上顎前突を含む咬合異常は歯周病や齲蝕の発生と関連するか?

咬合異常は歯周病や齲蝕の直接的原因となる科学的根拠はない.

 

咬合性外傷は歯肉炎、歯周炎を惹起しない。咬合は歯周病の進行におけるリスクファクターである。咬合性外傷が歯周組織破壊のリスクファクターであるというエビデンスはあるもの の、歯周組織破壊の引き金になるというエビデンスはない。咬合性外傷が プラークに起因する歯肉炎や、歯周組織のアタッチメントロスを誘発することはない。歯の過度可動性を引き起こしている咬合力は、進行性歯周炎においてアタッチメントロスを加速 させ、歯周疾患治療による治癒を妨げる.叢生は齲蝕の感受性を上げるも のではない

 

上顎前突を含む咬合異常は社会心理学的に影響を与えるか?

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上顎前突を含む咬合異常は社会心理学的に影響を与えるか?

上顎前突を含む咬合異常は社会心理学的に影響を与える可能性が高い。

不正咬合の程度は身体的領域,心理的領域,社会的領域へ影響を与えるとの高いエビデンスの論文が存在す る(文献 3、エビデンスのレベル I)。改善された容貌、口腔機能、健康、社会的幸福に対する自覚的、他覚的 証拠があるにも係わらず、不正咬合と矯正治療は、思春期の一般的な QOL(quality of life)と口腔の健康に関 わる QOL に影響しない(文献 1、エビデンスのレベル IVb)、とする報告も存在するものの、矯正歯科治療を 求めている患者は容貌と社会的外見を気にしている(文献 4、エビデンスのレベル VI)、不正咬合とその治療
は心理学的には自分のイメージに影響を与える、社会的には他人からみた好感度、社会的な容認、聡明さに影 響を与える(文献 5、エビデンスのレベル VI)、不正咬合を含む歯科疾患の結果、私たちの社会において身体 的、社会的、経済的影響を及ぼす(文献 6、エビデンスのレベル VI)といったその影響・関与の存在を認める 報告が多く認められる。

上顎前突について

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上顎前突について

上顎前突(maxillary protrusion)は俗に出っ歯(buck-tooth)と表現されるように、一般的には上顎前歯が下 顎前歯より著しく前方に突出した咬合異常を総称する。1992 年(平成 4 年)に「文部省 学術用語集 歯学 編(増訂版)」が発刊されて、学術用語として「上顎前突」が収録され、それに対応する英語として「maxillary protrusion」、「prognathia」があげられている 1。2008 年に発刊された日本歯科医学会学術用語集では「上顎前突」 は「maxillary protrusion」、「 prognathia」、「maxillary prognathism」があげられている 。

日本の医学事典においては、上顎前突は「上顎骨変形の一つで側貌において上唇は下唇より著しく突出して 見え、上下歯列の対応関係(咬合)において上顎前歯は下顎前歯より数 mm 以上前方に突出し、しばしば口裂より露出する。上顎骨歯槽突起の前方過剰発育によるものは、上顎前歯の歯軸も水平面に対する傾斜が大であるが、臼歯部の咬合は正常であり、邦人にしばしばみられる型である。まれに、上顎骨体の前方過剰発育に基 づいて起きることがあり、この場合は臼歯部咬合が上顎近心咬合を示す」と記されている 。また、新歯学大辞典においては「上下顎前歯切縁の水平的被蓋距離すなわちオーバージェットが正常より大きい咬合異常の総 称。この中には種々の不正状態が含まれており、多くの人が分類を試みている」とも記されている。

 

新歯学大辞典においては「Angle の不正咬合分類法においては、II 級 1 類および 2 類にこれを含めており、 正常な上顎歯列弓に対して下顎歯列弓が遠心に咬合するものとしているが、I 級でも上顎前歯の唇側転位のあ るものや、下顎前歯の舌側転位のあるものもこれに含まれる」としている 。また、「下顎歯列弓が上顎歯列弓 に対し遠心、あるいは後方の位置関係にあるものを言い、それが第一大臼歯の対向関係に現れている。特に II 級 1 類はオーバーバイト、オーバージェットが大きい I 級と異なり、舌、オトガイ筋、頬筋などの異常筋機能、
代償性筋活動を伴うため、第一大臼歯の近遠心関係、および上下顎基底の前後関係、組織系すべての相互関係 の診査をすることが必要である」と記すものもある 。

一方、咬合異常を分類している中で、高橋の分類では「上顎前突を上下顎前歯の前後的な距離、すなわちオ ーバージェットが 7~8mm 以上あるような不正状態の総称」としている 。同様に骨格系の分類について、骨 格性 pattern では、ANB が 3°を超えて大きい場合に骨格性 II 級とする分類によって、下顎が劣成長もしくは後方に成長しているか、上顎が過成長もしくは前方に成長しているために、下顎が上顎に対して後退位をとると 記している 。