上顎前突症患者に対し、機能的装置は、有効か?

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
日本矯正歯科学会から出ている
「 矯正歯科診療のガイドライン」 を読んで勉強しています。
ガイドラインの中の大切な内容をまとめながら、ブログに残していきたいと思います。

上顎前突症患者に対し、機能的装置は、有効か?

 

一般的には機能的装置が成長期の上顎前突に対して、骨格系の改善に臨床的効果を及ぼすという科学的根拠
はなく、むしろ否定的といえる。しかし、治療が功を奏する者とあまりうまくいかない者が存在することは否 定できない。今後は機能的装置の適応症を検討することも必要となるであろう。

 

上顎前突に対する機能的装置は骨格系の改善に有効か否か検討したシステマティックレビューまたはメタ アナリシス(エビデンスのレベル I)が 5 編認められた。論文選択基準に多少の相違はあるものの、いずれの 研究も同一条件下で治療を行わない II 級対照群が存在していることを論文選択の条件としている。厳密な方法 論を用いており最新の文献 1(エビデンスのレベル I)では、機能的装置による下顎骨長に対する増大促進効
果は統計的に有意なものであったことを示しつつ、変化が小さいため臨床的な有用性に疑問を呈している。ま た、文献 2(エビデンスのレベル I)では Fränkel 装置が下顎の成長に対して統計的に有意な効果を及ぼしたこ とを示しながら、様々な要因によりその効果が誇張されたものであることを指摘している。文献 3(エビデン スのレベル I)では上下顎関係の変化に効果があったと述べているが、その評価項目は SNA、SNB、ANB、オ ーバージェットであり、歯性の変化による影響も考えられる。文献 4(エビデンスのレベル I)では articulare から pogonion あるいは gnathion までの距離が有意に増加し、その他の計測項目では有意差を認める項目はな かったと述べているが、文献 1 では articulare を下顎骨長計測の基準として用いることに疑問を呈しており、 実質的に有意差を認める項目はない可能性がある。文献 5(エビデンスのレベル IVb)では機能的装置は平均
的には上顎の成長抑制や下顎骨の前方成長の促進はもたらさなかったこと、下顎の垂直的な成長はわずかに促
進されたこと、効果がある者とあまりうまくいかない者が存在し、治療に対する反応のヴァリエーションが広 いことを述べている。

 

上顎前突における乳歯列期・混合歯列期の治療

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
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上顎前突における乳歯列期・混合歯列期の治療

矯正歯科治療における乳歯列期での治療は、混合歯列期の治療やその予後にも影響を与えるため、慎重な判 断を要する。混合歯列期は Hellman の咬合発育段階では IIC から IIIB にあたり、顎の成長発育が旺盛な時期であるが、永久歯の萌出に伴い種々の不正咬合も発現する。混合歯列期の主な治療目的は、乳歯列期の治療目的 の1つであった上下顎関係の改善に加えて、歯列や顎の成長発育を阻害する因子を取り除くことである 1。こ れら乳歯列期、混合歯列期の治療を I 期治療と呼ぶ。 本ガイドラインは、他の多くの診療ガイドラインと同様、根拠に基づいた医療(evidence-based medicine: EBM)
の手順で作成される「エビデンスに基づく診療ガイドライン」とすることを目標とした。しかし、現時点です
べてのクリニカル・クエスチョンに対して高いエビデンスは存在せず、引用された論文のエビデンスレベルも様々であった。本来診療のガイドラインは日本人を対象とした論文から得られたエビデンスに基づき作成され
るべきであるが、日本人を対象にしたエビデンスの高い研究はない。日本矯正歯科学会は臨床研究をより一層 推進していく必要がある。
乳歯列期・混合歯列期における上顎前突の治療は画一的なものではない。したがって、エビデンスに基づく正しい治療方法の選択を行うためには、過去に行われた臨床研究について十分な知識と理解を有することが必 要不可欠である。患者にとって本当に有益な I 期治療とは、少なくともこれらの内容を十分に理解し、且つそ れを実行できる技量を有する矯正歯科医によって行われるものであると考えられる。

上顎前突症患者は、歯の外傷の危険性が高いか?

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
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上顎前突症患者は、歯の外傷の危険性が高いか?

 

上顎前突は歯の外傷の危険性が高い。上顎前突の臨床的な決め方として高橋の分類によってオーバージェッ トが 7~8mm以上あるものと規定していたが、それ以下であっても咬合や側貌の観察によって上顎前突感があり、他の分類に入れにくいものも臨床的に上顎前突として取り扱われている。いずれにしてもオーバージェットとの関連は大きく、その大きなオーバージェットを正常範囲に減少させることは上顎前突を治療する共通 認識であるが、その意義について考える必要がある。

上顎前突に限らず不正咬合による障害は、齲蝕発生、歯周疾患の誘因、歯の外傷および歯根吸収の誘因、咀機能障害、筋機能障害、骨の発育障害および発音障害などがあげられるが、疼痛や肉体的な違和感を伴うこ とが少ないため、患者はこれらの機能的な障害を自覚していないことが多い。 上顎前突は歯の外傷の誘発が、他の不正咬合に比べて最も高い。大きいオ ーバージェットの不正咬合は、それ以下の患者に比べ約 2 倍の外傷リスクがある。すなわち、オーバージェットの大きい上顎前突のままであるとそのリスクは 2 倍高い状態であり、もち
ろん偶発的因子(環境や行動等)も外傷歯の原因として関連しており、それらの相互的作用によるかもしれな いが、治療におけるオーバージェットの減少は大きく有益であると考えられる。
一方、上顎前突と発音障害の関連、オーバージェットと口唇癖との関連、などについては、これを直接的に評価する高いエビデンスの論文は現時点では残念ながら見当たらないが、上顎前突を治療しないとどうなるか、
というクリニカル・クエスチョンに対しては重要な分野であるため、今後の研究成果が期待される部分である。

 

上顎前突を含む咬合異常は口腔機能に影響を与えるか?

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上顎前突を含む咬合異常は口腔機能に影響を与えるか?

咬合異常は咀嚼機能に影響を与える可能性は高い。しかし、構音機能、顎関節症、ブラキシズムと直接的に 関連があるとの強い科学的根拠はない。

不正咬合は咀嚼機能、能率を低下させる。正常咬合の咀嚼機能は不正咬合 のそれより優れている。Angle 分類と咀嚼機能では、Angle III 級だけが明らかに咀嚼能率が減じている。不正咬合は顎関節症の直接的要因ではない。そして、過大な水平被蓋、過蓋咬 合は/s/、/z/、 /j/、/ch/、Class III は/zh/、/ch/、/sh/、/z/に影響を与える。不 正咬合はブラキシズムを引き起こさないと考えられる.

 

 

 

上顎前突を含む咬合異常は歯周病や齲蝕の発生と関連するか?

咬合異常は歯周病や齲蝕の直接的原因となる科学的根拠はない.

 

咬合性外傷は歯肉炎、歯周炎を惹起しない。咬合は歯周病の進行におけるリスクファクターである。咬合性外傷が歯周組織破壊のリスクファクターであるというエビデンスはあるもの の、歯周組織破壊の引き金になるというエビデンスはない。咬合性外傷が プラークに起因する歯肉炎や、歯周組織のアタッチメントロスを誘発することはない。歯の過度可動性を引き起こしている咬合力は、進行性歯周炎においてアタッチメントロスを加速 させ、歯周疾患治療による治癒を妨げる.叢生は齲蝕の感受性を上げるも のではない

 

上顎前突を含む咬合異常は社会心理学的に影響を与えるか?

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上顎前突を含む咬合異常は社会心理学的に影響を与えるか?

上顎前突を含む咬合異常は社会心理学的に影響を与える可能性が高い。

不正咬合の程度は身体的領域,心理的領域,社会的領域へ影響を与えるとの高いエビデンスの論文が存在す る(文献 3、エビデンスのレベル I)。改善された容貌、口腔機能、健康、社会的幸福に対する自覚的、他覚的 証拠があるにも係わらず、不正咬合と矯正治療は、思春期の一般的な QOL(quality of life)と口腔の健康に関 わる QOL に影響しない(文献 1、エビデンスのレベル IVb)、とする報告も存在するものの、矯正歯科治療を 求めている患者は容貌と社会的外見を気にしている(文献 4、エビデンスのレベル VI)、不正咬合とその治療
は心理学的には自分のイメージに影響を与える、社会的には他人からみた好感度、社会的な容認、聡明さに影 響を与える(文献 5、エビデンスのレベル VI)、不正咬合を含む歯科疾患の結果、私たちの社会において身体 的、社会的、経済的影響を及ぼす(文献 6、エビデンスのレベル VI)といったその影響・関与の存在を認める 報告が多く認められる。