妊娠中の治療で大切なこと

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
予防・メンテナンスの資料を読んでいます。

 

歯科治療で胎児への影響を気にする点は、歯科放射線、歯科麻酔、投薬の3点である。

エックス線診断は視診できない う蝕などの診断には欠かせない処置である。歯科用のエックス線撮影では乾球の向きが口腔内に向いており、撮影部位と子宮の距離が離れている。さらに腹部は防御エプロンで覆われているので胎児への影響は無視できる。日本で生活中に浴びる自然放射線量は年間平均2.1ミリシーベルトであるが、歯科用デンタル撮影1枚では約0.01ミリシーベルト、パノラマ撮影1枚では約0.03ミリシーベルトなので それぞれ換算すると210枚と70枚になる。

歯科治療時に疼痛をともなうと診断したときに局所麻酔を使用するが、使用しないで痛みを我慢するストレスのほうが アドレナリン分泌量が多く血圧を上昇させ子宮にも影響を及ぼす。歯科領域で多く使用される2パーセント塩酸リドカインは無痛分娩や帝王切開にも用いられ、通常量(カートリッジ2~3本)であれば問題ないと考えられている。しかし、歯科用シタネスト オクタプレシンは血管収縮薬であるフェリプレッシンに軽度の子宮収縮作用と分娩促進作用があるため 妊娠後期では使用を避けたほうが良い。スキャンドネストはリドカインより胎盤通過性性は低いが 血中濃度が高くなると胎盤への結合率が高くなるので注意が必要である。

投薬では妊婦に対して安全であると確立された処方薬はない。抗菌薬は安全性の高いペニシリン系やセフェム系が第一選択となり、これらにアレルギーがある場合にはマクロライド系が第二選択となる。鎮痛薬はヒトでは非ステロイド系鎮痛剤による奇形は報告されていないが、妊婦後期では胎児への影響を及ぼす可能性があり、基本的には禁忌と考えられている。比較的安全に使用できるのはアセトアミノフェン(カロナール)であり、産婦人科診療ガイドラインにも現時点ではアセトアミノフェンの動脈管早期収縮効果は否定的と考える専門家が多い。このため妊娠中の解熱鎮痛薬としてはアセトアミノフェンが勧められると記載されている。しかし 漠然と投与することは避けるべきであるとも記載されている。よって治療後に疼痛や炎症が発症すると予想されたときに治療上の有益性が高いと判断されたときに最小限の使用とする。また全身管理を行うためには産科医と連携した診療を行うことが必要であると考える。

妊娠中に口腔環境を整えておくことで生まれてくる子供へのミュータンス菌の母子伝達を防ぐことが報告されている。安心安全な出産、生まれてくる子供の口腔環境を整えるためにも出産前に母親の口腔環境を整える必要がある。患者さん1人ひとりが生涯を通じて信頼して口腔管理を任せられる病院をもってほしい。