糖尿病になると歯周病になりやすいですか?

アクアデンタルクリニック院長の高田です。
日本歯周病学会から出されている
「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」を読んでいます。

 

糖尿病になると歯周病になりやすいですか?

糖尿病になると歯周病になりやすい。厚生労働省の平成24年国民健康・栄養調査の糖尿病に関する状況によると、わが国におけ る「糖尿病が強く疑われる人」は約950万人、さらに「糖尿病の可能性を否定できない人」が1,100 万人と推計され、「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性を否定できない人」の合計 は平成9年以降はじめて減少したものの、成人の5~6人に1人は糖尿病あるいは耐糖能異 常を有する状態であることが報告されている 1)。糖尿病は、網膜症、腎症、神経障害などの 合併症を引き起こし、また虚血性心疾患、脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症や進行に関与 することが知られている。このような合併症は患者のQOLを著しく低下させるのみでなく、 医療経済的にも大きな負担を社会に強いており、対策が求められている。口腔領域において も、歯周病が糖尿病患者に高頻度にみられることから、合併症と認識され、糖尿病と歯周病 の関連について多くの研究が実施されてきた。2008年の日本歯周病学会発行「糖尿病患者に 対する歯周治療ガイドライン」では、糖尿病患者は1型2型にかかわらず、健常者に比較して、 有意に歯周病を発症する頻度が高いとされ、この関係についてはエビデンスレベル3と判定 されている 。このたびの改訂にあたり、旧版発行以降の約5年間に行われた研究を調べるこ とにより、エビデンスレベルが変化したか否かについて再検討を行った。今回の文献検索では糖尿病患者と非糖尿病者の歯周組織の状態を比較した研究を抽出した。  2型糖尿病を高い頻度で発症するピマインディアンを対象に2年間隔で歯周病の新規発症 率を6年間調べたところ、2型糖尿病患者は非糖尿病者に比較して、歯周病発症率が2.6倍高 いことが報告されている 3)。わが国において、健診受診者5,856人の5年間の歯周病所見の変 化を調査したところ、HbA1c(NGSP)≧6.5%の健診受診者150人がCPIコード3または4 になる相対危険度は性別、年齢、喫煙、BMIで調整後、HbA1c<6.5%の被験者群の1.17で あった 。台湾での2003から2006年の住民歯周病健診受診者の研究によると、35~44歳 の2型糖尿病患者では歯周病有病率が10%以上高く、歯周病リスクに対する調整オッズ比は 1.34であった 。SHIP(Study of Health in Pomerania) に登録されている2型糖尿病患者を 含む健診受診者と1型糖尿病コホート研究被験者から年齢をマッチさせた非糖尿病者を選択


9糖尿病患者における歯周病の病態
アタッチメントレベルと歯の喪失を比較したところ、2型糖尿病患者では60~69歳でア タッチメントレベルと正の相関が認められ、2型糖尿病女性患者は非糖尿病女性に比べ有意に 歯の喪失が認められた。また1型糖尿病患者では40~49歳と50~59歳で歯の喪失が顕著 であったことから1型・2型糖尿病患者はともに歯周病の重症度と歯の喪失が非糖尿病者に比 べ高いことが明らかとなった 6)。歯周病検査所見と空腹時血糖データを有する米国国民栄養 調査(NHANESⅢ) 健診受診者を対象にプロービングポケットデプス(PPD)を元に5群で 比較したところ、様々な要因で補正しても、アタッチメントレベルのもっとも高い群の空腹時 血糖異常と糖尿病の有病率はアタッチメントレベルのもっとも低い群に比べオッズ比はそれ ぞれ1.55倍、4.77倍であった 7)。  一方、Khaderらは糖尿病の歯周病重症度と広がりに与える影響を検討することを目的に 1970年1月から2003年10月のMedlineのデータベース中の関連した論文を手動で検索し、 18の横断研究、3つの前向きコホート研究、2つの臨床研究のベースラインデータを用いてメ タアナリシスを行ったところ、糖尿病患者は非糖尿病者と比べて有意に歯周病が重症化して いることを明らかにしている 。しかし、検索データベースが一つで、病態の異なる1型糖尿 病と2型糖尿病を併せて解析し、出版バイアスについても考慮されていなかったため、Chavarry らはMedline以外のデータベースも利用し2,440の研究から57研究を選択、49編の横 断研究(1型糖尿病:17研究、2型糖尿病:26研究、1+2型糖尿病:6研究)、8編の縦断研 究に対してメタアナリシスを行ったところ、2型糖尿病患者は対照に比べアタッチメントレベ ルで1mm、PPDで0.46mmと有意に高く、歯周病のリスクファクターと考えられた。また縦 断研究では非糖尿病者に比べ2型糖尿病患者で有意に歯周病が進行していた 9)。  以上のことから、糖尿病患者は1型か2型にかかわらず非糖尿病者に比較して有意に歯周 病の発症率が高いといえる。エビデンスレベルは2となり、次項の「糖尿病は歯周病を悪化 させるか?」の併せ考察すると、糖尿病は歯周病の発症リスクを上げると考えてよい。